harapeco20200309の日記

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江崎 貴裕 数理モデル思考で紐解く RULE DESIGN -組織と人の行動を科学する- 書評

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内容

ルールを設計する上での課題と、ルールがもたらす利点と欠点。

 

はじめに

数理モデル思考でルールを考えていく

ルールが想定通り機能しないとき、ほとんどの場合、モデル化の失敗が起きている

4つの階層、ルール自体の問題、個人のふるまい、人間の集団的なふるまい、ルールと集団によって環境(社会)が影響を受けること

 

第1章 ルールデザインの失敗学 -自明な失敗メカニズム

想像力の欠如・想像が難しい状況、ルールをイメージだけで設定すると、期待通りの効果が得られない。

人間の行動はそう簡単に変わらない。犯罪者に懲役刑を科しても、将来の暴力犯罪を抑止する効果はないという研究もある。

他人のことをよくわかっていて、簡単にコントロールできると考えてしまうという癖がある。

ルールの策定が目的化している。不合理なゴールが設定されてしまう。

問題の解決が分かりにくいか、時間がかかる場合ルールさえ作ると仕事をしたことになる。

(1)上位のルールに従う (2)過去にさかのぼって適用してはいけない (3)ルールの指示内容に曖昧な部分を残してはいけない

問題を報告するルールについて、報告側に不利益があってはいけない。

ルールを守ってもらうには (1)明文化されている (2)存在や内容を全員が理解している  (3)意義について全員が理解、納得していること。

新しいルールを作る際は、関係者を巻き込んで一緒にどのようなルールを策定すればいいか議論するのも非常に有効

 

第2章 個人とルールデザイン-人間は「粒子」ではない

インセンティブ設計の失敗:報酬が逆効果になる時

金銭的報酬を設定する→コブラ効果

目的とする状況に出来るだけ近い行動にインセンティブを与える

モチベーション、外発的動機づけ・内発的動機づけ

報酬や罰でより確実に行動を引き起こすことが出来る

報酬や罰が無くなればその行動は行われなくなる、同じほうしゅうではモチベーションが長続きしない

一方、内発的動機づけは報酬や罰が無くても強力に持続する

外発的動機づけによって内発的動機づけが失われることがある

報酬による動機付けが上手くいくとき (1)内発的動機づけの文脈が弱い (2)内発的動機づけの文脈が強いが、それが補助する形の報酬になっている (3)対象となる課題が個別に切り分けやすく、成果が簡単に測定できる

罰金や料金の値上がりのようなディスインセンティブによって行動を抑制できることがある。

一方遅刻に対する罰金は料金のように扱われ、遅刻が減らないといった場合がある。

希少性のバイアスやディスインセンティブが小さい場合逆効果

指標化による失敗→抜け道があると目的が達成されない

数値指標というものは常に、現実の1つの側面を切り取って数字にしたものにすぎない グッドハートの法則

(1)その指標で評価される人が、その指標を簡単にごまかせない

(2)その指標を上げるまたは下げることを、そのまま目的にして良い

(3)測りたいものが測定しやすいものであること

組織が大きくなると把握が難しくなる

指標の利用に囚われる

(1)簡単に測定できる情報しか共有されない

(2)情報が歪曲される

(3)測定やレポートの手間が馬鹿にならない

得または損するイベントが発生するのが遠い未来だと、モチベーションが高く維持されない、また、利益が具体的でないといけない

望ましくない行動をそのまま制限する

ナッジを利用する 選ばせたい選択肢を目立たせて意識を上げることで、その選択肢を選ばせやすくすることが出来る。

 

第3章 集団とルールデザイン-グループから生じるメカニズム

集団と個人とで利害関係で対立する(コロナ自粛等)

個人のレベルだとルールに従わないほうがメリットがある 社会的ジレンマ

非合理的に協力することがある(みんなが協力しているなら自分も協力しよう)

自分の為だけの不正でなく、他の人の利益になるなら不正への罪悪感が軽減されてしまう

ルール決めに参加できない将来世代に負担を押し付ける

周りのことが気になりすぎて-見ているものが同じでも集団によって違う結論に至ることも

アビリーンのパラドックス 違う意見なのは自分だけという思い込み

他の人の善い行動示すことで、いい方向に促すことも(納税、電気使用量)

望ましい行動を行っている人が少ないとい広報は逆効果になることも(投票、献血)

かぎられた範囲の中で正しい個体を出す場合、集まって相談してはいけない

逆選択

情報の非対称性をなくすことで防げる

渋滞などの情報の掲示は情報を受け取った側の行動をある程度予測する必要がある

 

第4章 社会とルールデザイン-モデル化の外の現象

トラック運送など、ルールによって記述されいない外の世界がルールによって変化してしまい、当初想定した状況からかけ離れた結果を生んでしまうことがある

ルールデザインが想定している時間的な範囲が狭すぎると(少年犯罪など)失敗する

既存の規則が新しいイノーベーションを阻害する(ウーバータクシー)

ルワンダのドローンによる医療品輸送など、新興地域のほうが規制がなく新しい試みが進んでいく。

時代遅れになるルールには対応していかければならない、グレーゾーン解消や特例措置など

対応しなければならないリスクと当座対応しなくていいリスクを見極め、事後的に対応する方針をとることを推奨、逆に事後的な対応では困るリスクについては慎重に検討する

忘れられるルール、誰でも確認できる状態になっていない状況では陳腐化する危険性がある

ルールを変えるときに必要なこと、ルールを変えたとしてももともとの目的が達成されることを示す、変更によるメリットを示す、

人々の考え方やモラルがルールと密接に関連している(タバコ)

 

第5章 人を活かすルールデザイン-制約条件としてのルール

ルール遵守のコストを考える→コストが軽視されている、不祥事の後は厳しいルールが設計されやすい

ネットフリックスはより大きな目的(会社の利益の最大化)のために社員に裁量権を与えて、細かいルールを撤廃している

消火栓など標準化は大きな恩恵がある

ルールによってある種の制約をあたえられた方が、それ自体が手掛かりになって考えやすい(緑の卵とハム)、ほどよい制約を考える

 

第6章 人工知能とルールデザイン-AIと人の混合システム

一見もっともらしいスコアにされてしまうと、単純化・一元化したものの見方が助長され、個人が不当な扱いを受けるリスクが高まる

AIは現実のあるべき姿ではなくデータとして与えられたパターンを出力する

AIは人間がもつ偏見や、同じ条件でも矛盾した判断をしてしまう欠点を補うポテンシャルがある

ダイナミックプライシング 動的なルールは有効だが運用が難しい、そこをAIがアルゴリズムさえ整えば担えるかも

アルゴリズムはその人が知らないうちに気分や行動に影響を与えることが出来てしまうことも

AIの人間らしさは人々のコミュニケーションを活性化させる

わずか6%の車に渋滞解消アルゴリズムを組み込むだけで、自然渋滞が防止できるという研究も

AIはあいまいな表現を理解できない

AIの信用 (1)予測可能性 (2)安定性 (3)信頼性情報の表示 (4)人間らしさ

誤報はある程度許容され、見逃しは大きく信用を損なう

第一印象が重要

 

第7章 成功のためのルールデザイン-フィードバックのプロセス

改善することを前提としてルールを策定・運用する

フィードバック制御

ルールが機能して目的が達成されているかを、いつ、どのようの評価するか事前に決めておき、評価に応じてルールの改善、または撤回を行えるようにしておく

自信過剰バイアス 過大評価バイアス 実際にはコントロールできないものでもコントロールできると信じ込みやすい

コントロールが効きにくい状況では、物事を実際の難しさより甘く見積もる

過確信バイアス 自分は世の中のことをよくわかっていると思い込みやすい

実際には役に立たない情報を集めると逆効果になることも(生い立ちから現在の性格予測など)

利用できる情報が増えれば増えるほど、正しい予測が出来ていると感じる性質

ルールは問題が発生するまで放置されがち、

個人に責任を求めるなど、物事を過度に単純にしがち

サンクコスト(埋没費用)に関するバイアス

コンコルド効果(高速旅客機プロジェクトの損切が遅すぎた) 責任を負っている人ほど強く働く

確証バイアス

ルールのフィードバックのための前提条件

事前にシナリオを評価するための「数理モデル化」と、正しい評価と意思決定を可能するための「正しいデータの取得と解釈」

何も考えず適当に取ったデータは、ほとんどの場合、使い物にならない

予測の妥当性をチェックする 帰納的な予測と演繹的な予測

過去と現在とで性質が変わっていない→帰納

やったことがない物事について推論による予測→演繹的

使用するすべての前提の妥当性がそのまま予測の妥当性になる

ランダム化比較試験 2つの条件を用意して実験を行い、その差を比較する。着目したい要因を2つのグループでほぼ同じ条件に揃えることが出来るので、知りたい要因を純粋に測れる

(1)目標の設定と選択肢の洗い出し

(2)基本ルールの組み立て

(3)リスクに対応するルールの設定

(4)モニタリングと追加措置の実施

感想

ふわっとした内容なのかと思っていたら、具体例が多くて良かった。ルールの中でも報告の手間(コスト)がかかるものがあるというのが印象に残った。

偏見や情報の集め方に注意しようと思った