8月の読書メーター
読んだ本の数:12
読んだページ数:4204
ナイス数:42
英語で珠玉のエッセイ[音声DL付]の感想
裏には「英検準2級/TOEIC400~」とあります。構文レベルとしてはその通りだと思いますが、語彙や熟語に関してはそれなりに難しいものも含まれているので、多読のための教材にしても負荷が低すぎるということはないでしょう。また中高生用の教科書のような無味乾燥な内容や同じ構文の繰り返しでもないので、エッセイ風の文章に関してなら英作文の参考にもなると思います。 32編のエッセイの分量が毎回ほぼ同じなところだけやや残念でした。
読了日:08月01日 著者:ケイ・へザリ,Kay Hetherly
実力も運のうち 能力主義は正義か? (ハヤカワ文庫NF)の感想
能力主義を追求することは良き社会を形成するために必要な唯一の条件ではないという主張。現状は学歴と収入、能力と功績が密接だと考えすぎられている。党派的な垣根を超えて、公共の場で共通善について議論していくことで、条件の平等を整えることが重要だという。また能力主義を強調することは「負け組」を作り出し、「勝ち組」に自分たちは運が良かった部分も多分にあることを忘れさせることで、分断が起こるとも。
読了日:08月06日 著者:マイケル・サンデル,Michael J. Sandel
百年の孤独 (新潮文庫 カ 24-2)の感想
現実への幻想の溶け込みももちろんだが、螺旋のように登って下っていくお話なのに、非対称的に扱われる登場人物たちに驚嘆した。反乱の英雄と引きこもり、勤勉と奔放、肥満と痩身、旧約聖書の預言者のような長命と病気による短命。呪われた一族でもあり、祝福された一族でもあり、好き勝手に生きた一族でもあった。
読了日:08月11日 著者:ガブリエル・ガルシア=マルケス
人新世の「資本論」 (集英社新書)の感想
先進国のエコで健康な生活は、汚濁を(最貧)途上国に押し付けているだけで、地球全土では何も改善していないことを指摘。資本主義の利益最優先の姿勢と膨張を前提とした政策はいつか矛盾を来たすと言い、平等(専制の排除)と環境(循環重視の脱成長)を両立できるのは脱成長コミュニズムだけだと述べる。それはトップダウンの政策ではなく、市民からの、そしてグローバルサウスから知見で以て、社会を運営していくことだという。中盤のマルクス解釈は冗長で、若いころと晩年で別の事を言っていればそりゃ批判できないことになるだろう、と思った。
読了日:08月11日 著者:斎藤 幸平
宗教と日本人-葬式仏教からスピリチュアル文化まで (中公新書 2639)の感想
宗教をスポーツのような幅で捉えるように主張し、一つの形態を基準にすることを否定。それに伴い信仰なき実践や所属という視座を導入し、日本の宗教を語る。綺麗な構成は土台無理なテーマなので、綺麗なまとめも出来ないが、著者の主張としては、欧米のキリスト教への向き合いの信仰なき実践への接近。神道は宗教性を否定することで、その時々の習俗や流行に乗っかり、時にハコとなっている。葬式仏教も同様。また、宗教の現代的な役割、つまり信仰なき実践を強調すれば、新宗教や外部宗教に対してのトップダウンで回心的という批判は正当性を失う。
読了日:08月16日 著者:岡本 亮輔
まずはこの一冊から 意味がわかる線形代数 (BERET SCIENCE)の感想
高校と大学を繋いでくれる。厳密さはない分、高校レベルが分かっていれば誰でも取り組める。計算例題もその解説も豊富。
読了日:08月16日 著者:石井 俊全
フッサール 起源への哲学 (講談社選書メチエ 240)の感想
虚空、宙づり、潜在態、充満する空と様々に言い換えられたことで、「大地」としての現象され(う)るものの集合をつかめた気がする。時間もまたこの「大地」に所与されたものだという。その中で現象するものとしての自己同一性を確保するための準現在化が起こる。認識的なものや論理的(客観的)なものを超えた「基盤」として興味深いものではあるが、ごまかしを入れなくても良いくらいに確からしい分、これを根っこに議論を進めていくことも出来ないくらいに言明出来ている領域も狭いように感じた。
読了日:08月18日 著者:斎藤 慶典
経済学の壁:教科書の「前提」を問うの感想
経済学史であり、現代経済学の概観。経済人、演繹モデル偏重、時間の取り扱い、意思決定プロセスや制度軽視といった主流派が抱える問題点と、それを解決するために内外から提唱されてきた理論やモデルも説明。それらは大抵「異端派」扱いされている。「主流」も移り変わってきたとか、学問としての独立するため、また社会科学の中で特別な地位を得るために数式を用いてきた側面や、実際の政治との乖離(日本)など、経済学観に留まらない内容。最後はモデルの使い分けを示唆している。
読了日:08月24日 著者:前田 裕之
Factfulnessの感想
自分には恐ろしく退屈な内容でp130で止め。普段かための本を読まない人向けの内容なのは日本語版のレビューで察していたが、ここまでありきたりだとは予想外。英語の速読のつもりで読んでいたが、北欧の方が、平易を意識して書いているからか、構文・語彙ともに単調で、これを読むのをやめてから別の読書が捗ったほどで、やる気を吸われる本だった。
読了日:08月24日 著者:Anna Rosling Ronnlund,Hans Rosling,Ola Rosling
日本宗教史 (岩波新書 新赤版 1003)の感想
p224「歴史以前から歴史を一貫して貫く日本的発想の〈古層〉なるものはなく、〈古層〉自体が歴史的に形成されてきたものと考えるのが本書の出発点であった。」その時々の代表者の思想をなぞっていく形で、宗教の変遷を語る。〈古層〉からして仏教の影響が見えるとか、仏教隆盛は鎌倉時代だけとも言えないなど、(特に明治の)〈古層〉発掘を契機に当世の宗教どころか、その時点での宗教史すら書き換えられるのだなと、政治との関係を改めて認識できた。章立てと中小目次の使い方がうまく、換言が逐一に入るので読み直しもしやすそう。
読了日:08月25日 著者:末木 文美士
映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形 (光文社新書)の感想
p281「①映像作品の供給過多、②現代人の多忙に端を発するコスパ、③セリフですべてを説明する映像作品が増えたこと」を倍速視聴・10秒飛ばしの出現理由として挙げている。「飛ばし」が許されるかにおいて、映像と読書を分けるものとして成立からしてその手の「消費者」を想定しているかを挙げる。一つこの本を批判するとすれば、人々の無形的な営みにおける映像作品が占める割合も激減している可能性に触れていないこと。質的な変化や構成比には触れているが、絶対量や主観的な重要度を加味しないのは社会的な要素と結びつける上で片手落ち。
読了日:08月26日 著者:稲田 豊史
カラー図解 進化の教科書 第1巻 進化の歴史 (ブルーバックス 1990)の感想
一定のペースで授業が進んでいく感じがとても心地よい。調査の限界に関する部分、大進化の断続平衡性、異質倍数性や水平遺伝子移行といった染色体単位での(生殖や突然変異以外での)多様化、種の定義と用途に応じた使い分け等々、そして各節を補完してくれる挿話によって細かい知識を拾えたのは良かった。しかし、自然選択や適応といった大きい概念(枠組み)の精緻化はまだまだ発展途上なのだなとも感じた。哺乳類への言及が多く、ヒトに至っては4章まるごと100頁も割かれているのは、西欧人らしいなあと思ってしまった。
読了日:08月29日 著者:カール・ジンマー,ダグラス.J・エムレン
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