harapeco20200309の日記

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【メモ】環境要因のミッシングリンク、および後から中立説

環境要因のミッシングリンク、および後から中立説

 

長期的に(気候、天敵、食物、ニッチの近い別の集団の流入・流出度合いが)安定した地域で暮らしている集団は、遺伝的浮動以外で遺伝子分布が変化していくことはないと仮定できる。

www.eic.or.jp


この状態から環境に変化が起こったときに、突然変異・自然選択によって進化していく(はず)。
時間スケールを十分にとる、つまり世代交代が十分に行われていって、環境も落ち着いていれば、新たに獲得した形質が保存される。


人間でいえば、言語機能や逆向きの推論力、など。
動物でいえば、キリンの首の長さ、ハイエナの消化力、牛の反芻と胃、など。

natgeotv.jp

 

ここからは思考実験だが、例えばハイエナから獲物を奪うような強力な肉食獣が姿を消したとしても、ハイエナから骨をも溶かす消化力が失われるわけではない。
時間が経てば、ハイエナが大型の肉食獣に進化していくはずだ、と考えてもいいが、そういう突然変異が起きなければいけない。
そもそも消化力と、獲物を狩る能力と、別の肉食獣との獲物の取り合うための力について、どれほどのトレードオフ的な関係かを定量的に把握できていない。
そのため、上記の能力に関係するDNAに突然変異が起これば、自然選択によって一部のハイエナがライオンのように進化していく、と確実に言えるわけでもない。

 

ところで、もしライオンに特異的なウイルス等によって、人類が文化的・人類学的な集積を始める直前に、サバンナからライオンが消え、主な肉食獣はハイエナだけだったというifを想像してみる。
このとき、人類はハイエナの高い消化能力をどう「役に立っている」と説明するだろうか?


おそらく、「一匹の獲物あたりから摂取できる栄養素が多くなり、生存に役立っている」・・・① といった説明を付すはずだ。


これは現状の「大型の別種の肉食獣に獲物を横取りされる分、取り分が減るのを補うため」・・・② という説明の仕方から前半を切り取って、後半部分の言い回しを調整した言い方になっている。


そして、ifの場合の世界での説明である①を、私たちは間違っていると断罪できるだろうか?
おそらく、不正確な説明、とするべきという人が大半だろう。
つまりライオンがまだ生きていた時代についての考えを巡らせれば、②の説明が出来るはずだ、という具合にだ。
だが、ifの世界では化石などで、ライオンの痕跡が辿りづらく、どうしても①の説明しか出来ていない場合、それをどう評価すればいいだろうか?「誤った説明」を導いたとして、赤点をつけるべきだろうか?

 

私は、この現実の世界でもこのような「誤った説明」が多く存在すると考えている。
目立つ色の動物は性選択に有利とか、逆に緑と茶色の体毛は迷彩になっているとか、どうしても「現状の環境要因」と「現在もっている形質」を直接見比べてしまいがちである。


「現在もっている形質」のうち、不可解に思えるものがある場合にはそれを「過去の環境において有利な形質」で「現在は生存に対して中立」な場合も存在するのではないだろうか?

 

氷河期などから分かる通り、気温に関しては数万年数十万年という、進化論的における時間スケールと噛み合う長さで変化する環境要因がある。
火山の噴火や太陽の活動や海岸線の変化などによっても、環境要因の変化はもたらされ、突然変異・自然選択によって動植物は大きく姿を変えて来たであろう。
ところが、その際に獲得して形質は、その後の長期の安定によって、(ほぼ)無用の長物となったかもしれない。
あるいは、広く分布している種族のうち、一部地域の集団でだけ、そのような進化が起こった場合に、安定し続けた地域にのほほんと暮らしていた集団は、その後の安定期における環境で考えると、自然選択を受けた集団に比べて(無駄がない分)生存に有利かもしれない。
つまり、一見変わった特徴は、現在の環境において生存に有利な形質かどうかは分からない。よくよく考えると有利かもしれないし、中立かもしれないし、何なら少し不利な可能性すらある。


外来種が在来種に取って代わってしまう事態は、収れん進化(この概念は明らかに「現状の環境要因」と「現在もっている形質」を直接見比べるアイデアだ)と矛盾しているような感じがあるが、このような「後から中立説」であれば説明がしやすい。
収れん進化の概念の方があやしい概念なのだ。

www.newsweekjapan.jp

 

蚊等の殺虫剤耐性の話も、環境要因の変化の文脈で説きなおせる。殺虫剤散布を蚊にとっての環境要因ととらえるのだ。
一部の殺虫剤に強い個体が生き残って、餌の取り合いが無くなる分個体数を伸ばし、その「殺虫剤耐性」の遺伝子が優占していくわけだが、その後、殺虫剤をまかなければその形質は無用の長物になるわけだ、耐性持ちは多く残る。

 

ちなみに、この説明は中立説を前提としたものである。殺虫剤耐性なんて基本的に無駄なのだから、大昔の意味での自然選択の感覚(爬虫類から鳥類に進化していくうえで、全ての少しずつの形質変化はそれぞれ生存に有利だった、とか言っちゃう感覚)ならば淘汰されているはずと考えそうなものだが、実際はそんなこともないし、このような「殺虫剤耐性がある個体の存在」を前提にした説明の仕方に、疑義を抱く人もいない。それなのに中立説、あるいはほぼ中立説のアイデアが大して広まっていないのは不思議だ。

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www.nig.ac.jp

 

世代交代数などの時間スケール・塩基置換速度との兼ね合いをもっとちゃんと考えないといけないが、環境要因のミッシングリンク、というか自然選択のアイデアの拡張と厳密化をすれば、もっと包括的で説得力のあるように、進化論をブラッシュアップできると思う。